初田ハートクリニックの法度

「は、離せ! このままじゃ、オレは」

「なぜ逃げるんです中村さん。これは、あなたの教育の結果ですよ」

「オレは何もしていない!! なんでオレがこんな目に遭わされなきゃならない!」

 コウキが冷たい目で秀樹を見ている。

「お母さんから電話で聞きました。コウキくんが作ったタルトを捨てたでしょう。自分にとっては不要なものだからって」

「それがどうした!!」

「だからあなたの教育方針に則って、コウキくんは要らないと思ったあなたを処分しようとしている。父親の教えに忠実な良い子じゃないですか」

 初田の声は秀樹を責めるでもなく怒るでもなく、楽しそうだ。

「お前医者だろ! なんとかしろ!」

「あいにくわたしはヤブ医者なので、正常な人間は治せないんですよ」

 初田は秀樹に「ヤブ医者」と言われたことと、「コウキは正常だ」と言われた事を引き合いに出す。

「あなたの論で言うならコウキくんは正常なので、わたしはこれでお暇しますね」

 他人事のように言い捨てて、初田は玄関扉を閉めようとする。

「待て、クソが! 医者のくせに患者を放り出すのか!?」

 自分で言った暴言を棚に上げて、秀樹は初田に掴みかかった。

 ウサギマスクの耳を力任せに引く。

 秀樹はウサギマスクを床に投げ捨て、初田の素顔を見て戦慄(せんりつ)した。

 そこにいたのは、父親を殺害・解体した容疑で追われている嘉神平也だった。