初田ハートクリニックの法度

 自室で日記を書きながら、コウキは子どもの頃のことを思い出して、それも日記帳に記載していく。

 この頃の気持ちに、なんと名前をつけるのか。

 コウキは知らない。

 初田なら教えてくれると思い、記していく。

 軽いノックの音がして、礼美が顔をのぞかせた。

「コウキ。今日は一緒にタルトを作ってみない?」

「タルト?」

「ええ。今日のチラシにタルト型が載っていたの。お散歩のついでに買いに行って作りましょう。クリームや果物を乗せて好きなタルトを作れるのよ」

 礼美の声は踊っている。

 どんなタルトが好きか、なんて考えたことがない。

 クラスメートたちが「誕生日にいちごのケーキを食べるんだ」と話しあっているのが聞こえてくることはあった。

 ケーキを食べるのなんて、たぶん幼稚園以来だ。

 礼美がコウキの誕生日にと買ってきたケーキは、一口しか食べていないのに秀樹が怒って捨ててしまった。