初田ハートクリニックの法度

「あと、母さんが父さんと電話して泣いてた」

「そうか……」

「俺が先生の治療を受けるのは恥ずかしいことなんだって。なにがいけないのか、俺にはわからない」

 そのことも日記に書かれている。

 このページだけ、コウキの筆跡は荒々しく、書き殴るようなものになっている。

「コウキくんは何も悪いことはしていないよ。どうしてもわかりあえない人種というのはいるからね。たまたま中村さんが波長の合わない人種だったと言うだけのこと」

「小学校では教師が、みんな仲良くしましょうって言ってるのに?」

「それができる人ばかりじゃないから、口論で傷害事件に発展したり、いじめが起きたりするんだよ」

 話せばわかるなんてのは理想論だ。

 現に、秀樹は何をどう説明されてもコウキの治療に否定的。

 自分の意見以外認めない人間は一定数いるものだ。これは人間の(さが)。片方だけの努力で話し合いは成立しない。

 初田はウサギマスクをした己の顔に触れる。

 ウサギマスク生活をするようになったのも、話してもわかりあえないが故の結果だ。

「……なんて、医者が言っていいことじゃないとは思うけどね。コウキくんは、お母さんが泣いて喜ぶようなオムレツを作れるすごい子なんだから。自分にできることをすればいいんだ。中村さんにどう言われてもわたしが味方をする。胸を張って生きなさい」

「わかった」

 ありのまま受け入れて後押しする。

 初田がコウキにしてやれるのはそれだけだ。

 秀樹に罵られようと、コウキが助けを必要とする限り、医者として手を差し伸べる。