初田ハートクリニックの法度

「きみはお母さんが作ってくれるもの、まずいときはまずいって言うかい?」

「いや、感想を言ったことがない。ごはんのとき何か言うと父さんが怒るから」

 ささいな会話を楽しむ余裕もないなんて、実に無味乾燥な食卓だ。

「お母さんがおいしいっていってくれて、どうだった?」

「わかんない。けど、ここが熱くなる。嫌な気はしない」

 言いながら、コウキは自分の左胸に手を置く。

「それは嬉しいっていうんだよ」

「秋を見つけたときも、同じだった」

 身振り手振りで、日記に書ききれなかったことを話す。

 味覚で秋を感じるってどんなことなのか、そんな些細な話だ。

「新米を食べてみて、秋はわかったかな」

「わからない。新米じゃない米とどう違うかなんて、考えて食べたことがなかった。知らなくても生きてこれたし」

「それはそうだろうね」

 保育園児が口にするような疑問を次々に口にする。

 本来ならこの年になる前に、親と交わすであろう会話だ。