初田ハートクリニックの法度

 クリニックの外では、初田と秀樹が対峙する。

 秀樹は道の中程に立ち止まっている。

 人々が迷惑そうな顔で秀樹を見て、よけて通る。

「治療方針をわかっていただけなかったようで、残念です」

「治療? ふん。ヤブ医者め。虫だか動物を殺すのなんて、一時的な反抗期ってだけだろ。コウキに治療なんて要らん」

「どうしてそう言えるんです」

「は?」

 初田は素朴な疑問を投げかける。

「正常と異常の境目が、医者でもないあなたに判断できるんですね。精神医学の道二十年の精神科医でも判断が難しい病気が多いのに。差し支えなければ見分けるコツを教えていただきたい」

 素人判断で息子(コウキ)を危険にさらすなと言ってやる。

 勝手に治療を放棄するのは、何よりも危険な行為だ。

「ぐ、お前に言う必要ないだろう! 変なマスクをかぶった怪しい人間が医者だなんてイカレている! オレはお前みたいな常識のない馬鹿が大嫌いなんだ!」

「医者がウサギのマスクをつけて生活してはいけないという法律でもあるんですか? 六法全書の何ページに載っているのでしょう」

 初田は当たり散らされてものらりくらり。秀樹の怒声にひたすら正論を返す。