初田ハートクリニックの法度

「コウキの治療は必要ないと言ったはずだ。なのにまだ診療方針だかなんだかの説明をしたそうだな。詐欺として警察に言ってもいいんだぞ」

「あなたは、中村コウキくんのお父さんですか」

 精神科も立派な医科。

 こんな風に罵られるいわれはない。

「詐欺ではありません。初田先生はコウキくんのお母さんに依頼されて診察をしています」

「一家の決定権は礼美でなくオレにある。オレが駄目だと言ったら駄目だ。二度とコウキに関わるな」

 今回あえて電話でなくここまで出向いたのは、音声データを児相に持ち込まれたくないからだ。

 ネルはすぐに察した。

「これはこれは。ようこそ中村さん」

「な、なんだお前、その奇っ怪なマスク! いや、その声、お前が初田か」

 初田がクリニックの扉を開けてでてきた。

 指先で扉の向こうを示して、ネルに避難するよう無言で伝える。

 ネルは小さくうなずいてクリニックに戻る。

 扉を閉めてすぐ受付カウンター内の電話に手を伸ばした。