初田ハートクリニックの法度

 そろそろ掃除を終えるというところで、スーツを着た背の高い男がクリニックの玄関先に立った。

 見た目は五十歳になるかどうか。

 高そうなスーツなのに、アイロンがけがされていなくてしわがよっている。

 眉間には深いしわが刻まれていて、普段から難しい顔をしているのが見て取れた。

「今は診療時間外ですよ」

「わかっている」

 男は苛立たしげに吐き捨て、ネルを見下ろす。

 患者ではない。

 ネルはクリニックに来る患者全員の顔を覚えている。

 新規の診療希望の患者、というわけでもなさそうだ。

「初田とかいう医者はどこだ」

「先生に、どういったご用ですか」

 ネルはポケットに手を突っ込み、子供向け見守り携帯の短縮ダイヤルボタンを手探りで押す。

 短縮一番には初田の携帯が登録されている。

 初田ならどうにかしてくれると信じて、そのまま男と会話を続ける。