初田ハートクリニックの法度

『何か用か』

「コウキの治療のことで話がしたいの」

 電話越しでもわかる、あからさまに不機嫌そうな声に背筋が冷たくなる。

 チっ、と短い舌打ちが聞こえた。

「このままではコウキのためにならないのは、あなたもわかるでしょう? だから初田先生にお願いしたわ。生活の改善と集団トレーニングが必要だと言われているの」

 電話の向こうではパソコンのキーボードを叩く音が絶え間なく聞こえている。

(息子の将来を左右するという話なのに、真剣に聞くつもりがないのね)

 受話器を握る手に力がこもる。

 礼美はここ最近、秀樹と夫婦を続けるのはコウキのためにならないのではと考えている。

 こんな親なら、いないほうがいいのではと。