初田ハートクリニックの法度

「ふざけないで。こっちは予約で二ヶ月も待ったのよ! わかったわよ、そのままでいいから診なさい!」

「なら診察しよう」

 初田はコウキに向き直る。

「それで、君の悩みは何かな、コウキくん。紅茶を飲みながらでいいよ」

「この子をどうにかして。おかしな行動ばかりするものだから、せっかく入った進学校を退学になってしまったの。他の病院では『重症すぎてうちでどうにもできない』と言われてしまって……」

 出された紅茶に手もつけず言い募る母親。
 初田はそれを遮った。

「わたしはコウキくんに聞いているんだ。お母さんは外に出ていてくれないか」

 診察室に入ったときから、コウキは一言も発していない。

 コウキではなく、母親がずっと喋っていた。

 冷たく言われ、母親は鼻白む。

「ちょっと。私がここにいちゃ不都合だとでもいうわけ? 私は母親よ!」

「コウキくんは男の子だもの、お母さんがいたら言いにくいこともあるさ」

 初田は「ね?」とコウキの意思を確認する。

 母親の顔色を窺いつつ、コウキは小さく頷いた。

 母親は聞こえよがしに舌打ちし、診察室のドアノブに手をかける。

「おかしな被りものをしているし、紅茶に煎餅なんて変なもの出すし、私を邪魔者扱いするし、変人って噂は本当だったのね。今日にでも他の病院への紹介状を書いてもらいますからね!」

 バン! と外にまで響きそうな勢いで扉を閉めて出て行った。