初田ハートクリニックの法度

 柔らかな香りが鼻に届く。

 不思議の国のアリスの絵本に出てきた、白薔薇に赤インクを垂らしたような薔薇を見つけた。

 秋咲きの品種、と立て札がついている。
 
「これは秋?」

「ええ。今しか見られない秋ね」

 薔薇の花のことも書き込む。

 目の前をトンボが横切った。見上げれば十匹ほど園内に飛び交っている。

 不思議と、今日は捕まえて千切ろうという気にならなかった。

(そういえば他の季節、こいつらはいたっけ?)

 チェシャ猫と同じで、見ようとしなければ見えない。

 初田の言葉を思い出して、もう一度園内の薔薇に視線を向ける。

 視力が変わったわけでもないのに、いつもより景色が鮮明に見えた。