初田ハートクリニックの法度

「わたしはイソギンチャクですかね。海があれだけ広いのに、あえて動かないのが自分に似ている気がします」
 
 かなり的確な自己評価をしているうえにネルと同じことを言うから、白兎は驚いた。

「ちなみにワタシならなんだと思う?」

「豆アジ?」

「なぜ」

「チームで連携するのがうまいでしょう? 研修医になったばかりのとき、先輩が「キミは自由奔放すぎるから白兎のチームワークを見て学べ」と」

 白兎と初田は同じ医大卒。

 マイペースな初田は、よく教育係の医師から注意されていた。

「わたしはチームプレイに不向きですから。その点においては白兎先輩を尊敬していますよ」

「他の点では不満があるように聞こえるな」

「わたしがコーヒー嫌いだとわかっているのにコーヒーを勧めるところがなければ、いい先輩です」

「そうかそうか。そんな君にはカフェラテをやろう」

 初田は無類の紅茶党で、コーヒー嫌いである。

 突き返されるとわかっていて、あえてコーヒーを差し出すのは白兎にとって様式美、お約束みたいなものだ。

「そんなものいりません。自分で飲んでください」

 缶のカフェラテを出してやれば、目線だけでわかるほど嫌そうな顔をされる。

(ワタシは、食い物にされるだけのプランクトンよりは成長できただろうか)

 白兎は少しだけ昔を思い出して笑った。


 前日譚 終