初田ハートクリニックの法度

 白兎が根津美ネルの主治医になってから半年ほど経った。

 今日はネルの通院日。

 白兎は初田がつけている体温や血圧、症状の記録ノートに目を通す。

 文字は丁寧で読みやすく、気になった点にはマーカーが引いてある。

 几帳面な性格がにじみ出ていた。

「さて、ネルさん。前回の診察からの三週間でなにか変化はあったかな」

「んー……。土曜は、朝ごはんを食べながら寝ちゃった。にいさんに起こされた」

 ネルは頭をかいて照れ笑いする。

 治療を始めた当初はこの世の終わりみたいな顔をしていたけれど、今では明るい表情をしている。

 症状がなくなったわけではないし、治療に十年は要する。

 日本での症例は六〇〇人に一人くらいの割合だ。

 この総合病院ですら、ナルコレプシー患者を診たのはネルで三例目。

 病院によっては診療経験なしというのも珍しくない。