初田ハートクリニックの法度

「ぼくは母さんと一緒に行くよ。母さんは病気がちだから、一人暮らしだと大変でしょう?」

 と、もっともらしいことを言っていたが、平也と一緒にいたくないからだと平也はよく分かっている。

 平也も、初斗が廉也についてくると言ったなら母の方についただろう。

 自分の子どもたちの仲が険悪だという事実に気づかずにこんな台詞を吐けるのだから、始末に負えない。

「大学に行くなら、高校みたいにどこでもいいなんていう無意味な理由で選ぶんじゃないぞ。金を出すのはわたしなんだ」

 家の近所だから通学が楽……という理由で高校を選んだことへの最大の皮肉だ。

 大学進学はかなりの資金が必要だから、言わんとすることはわかる。

 途中で飽きたからやめるなんてことになったら、札束をドブに投げ捨てるようなもの。

「初斗は神奈川の医大を受けると言っていたが」

「だから? それは初斗の話だろ。俺は別の人間だ」

「そんなことはわかっている。わたしは言葉遊びをしているんじゃない。弟に負けたくないとは思わないか。別に医者になれと言うわけじゃない。進路をしっかり決めろと言っているんだ」

「へえ、普通の人間はそう思うものなのか」