初田ハートクリニックの法度

 心を尽くしたお礼の言葉が欲しかったわけじゃない。

 ただ、引っ越しのために荷物を整理していて湯たんぽを見つけただけ。

 リナが入居するのはオール電化で床暖房の部屋だから、湯たんぽを使う機会はない。

 だからアリスに渡しただけ。

 べつに、アリスの部屋に暖房器具がないことを慮ったわけではない。

 アリスが返信を求めているわけじゃないのはわかるから、リナはそのままアプリを終了して、スマホをしまった。

 会計でお礼を言って店を出る。

 お茶を飲んだからか、それともほかの理由か、店に入る前より足が軽い。

 リナは帽子をかぶり直して、一歩踏み出した。


 閑話9 逃げ道を作らない生き方