初田ハートクリニックの法度

「あのときはありがとうございました。おかげでこうして普通の生活を送ることができています」

「お礼なんていらないわ。あんたに借りを作ったままにしておきたくなかっただけ。それを言うためだけに追ってきたの?」

 リナは帽子のツバを下げて顔を隠す。

「アリスさん、喜んでいましたよ。このアニメ好きだったんだって」

「そう」

 幼い頃。

 リナとアリスの姉妹仲は今ほど険悪じゃなかった。

 二人でならんでニチアサのアニメをみるくらいには、よかった。

 リナがモデルになってからは、そんな時間なくなってしまった。

 感傷に浸るタイプではないので、リナはそっけない返事をする。

「ご実家を出たと聞きました。順調にいっていますか」

「まあまあね」

「それはなによりです。実家を出るよう勧めた身として、悪い方に作用していたら申し訳ないと思いまして」

「……変な人。私はあなたの患者ではないし、自分の意思で実家を出ると決めたの。申し訳ないなんて思う理由がないでしょう」

 母がだいぶ食い下がってきたけれど、それでもリナは家を離れる道を選んだ。

 ついていく、一緒に住みたいと言われたのには辟易した。

 リナが鍵を渡すよう迫ったとき、アリスが嫌がった理由がよくわかる。

 いくら家族でも、自分のテリトリーをおかされたくはない。