初田ハートクリニックの法度

 初田は診療終わりに、初音(はつね)からの電話で平也逮捕の報を聞いた。

 電話を切ってその場に座り込む。

 (あゆむ)がテレビへの出演を提案してくれなかったら。

 リナが協力してくれなかったら。

 リナのフォロワーがSNSで拡散協力してくれなかったら。

 警察がそれを信じて動いてくれなかったら。

 どれかひとつが欠けても、この結末は訪れなかった。

 もう隠れて暮らさなくて良いのだと思ったら、胸が熱くなる。

 ウサギマスクを脱いで、初田はネルに問いかける。

「ネルさん。ネルさんは、ここにいますか。これは夢じゃないですよね」

「うん、私はここにいるよ。夢じゃないよ」

 ネルも感極まって初田に飛びつく。

 触れた箇所から伝わるぬくもりが、確かにこれは現実なのだと教えてくれる。

 ネルの背に腕を回して、初田は目をつむる。