初田ハートクリニックの法度

(初斗なら、この先もこれまで通り隠遁生活を送ると思っていたのに。予想が外れた。昔から、何考えているかわからん奴だったが、まさかテレビで顔をさらすなんて。あんなことされたら、俺はサングラスをかけてすら生活できないじゃないか)

 平也と同じ顔では生活できないから整形するか、もしくは顔を変えず人目を忍んで生きるかのどちらかだと思っていたし、実際に初田は後者を選んだ。

 そして平也がする服装を熟知した上で、平也の今現在の姿になり、映像を日本中に発信した。

 画面越しに送られてきた弟からの挑戦状は、平也に大打撃を与えた。

 平也に協力していた人間は、格安で医療を受けたい人間。

 平也はその足元を見て協力させていた。

 大々的な捜査がされている状態でなお、平也の逃亡を助けようなんて考える奴はいない。

 それに、平也は誰のことも信用せず、連絡先を教えなかった。

 信用しなかったのに、助けろなんて虫がいいことを言えるわけがない。

 これまで隠れていた初田がこんな行動に出たのは、なにかきっかけがあるはずだ。

 なにかが初田の背中を押した。

「……あのネルって女に話しかけられたとき、無視していればよかったのか?」

 意味不明なことを言われ、俺に妹なんていねぇと切り返してしまった。

 人違いだったと頭を下げてネルが逃げたとき、追わなければよかったんだろうか。

 もしくは、声をかけられた瞬間に初田のふりをすればよかったのか。