初田ハートクリニックの法度

 しばらくは駅周辺に近づけない。

 隠れ家にも戻れない。

 もし駅に行けたとしても、監視カメラですぐに居場所を特定されてしまう。

 監視カメラがない場所に行くのがいい。

 ひと気のないシャッター街、売り家の札がつけられた民家の裏庭を勝手に借りることにした。

 錆び付いた波板(なみいた)の物置をこじ開け、ほこりっぽい物置の中に入る。

 狭いが、ひとが通ることはまずないし、とりあえず雨をしのげる。

 逆さに置かれたビールケースに座り、身の回りのものを確認する。
 
 ポケットに入れていた折り財布もぐっしょり濡れてしまい、乾くまで札が使えなさそうだ。

 クレジットカードは作れないし、現金しかない。

 小銭は約千円分。
 
 足がつくといけないからと、携帯電話の類いを持たないようにしていたのが唯一の幸いだ。

 携帯電話は基本GPS内蔵だから、簡単に居場所を特定されてしまう。

 誰かに用があるときは、平也のほうから公衆電話で連絡していた。

 連絡先を教えたが最後、裏切られる可能性がある。

 暗い空を見上げながら、平也は考える。