初田ハートクリニックの法度

 英国紳士を思わせるようなスーツに身をつつんでいるのはまあまあ普通だとして、初田はウサギの被り物をしていた。

 ウサギは飾りがたくさんついた青いシルクハットをかぶっていた。

「とりあえずかけてくれ。もっと紅茶をどうぞ」

 初田は二人の動揺など全く気にせず、ティーカップに紅茶を注いでテーブルに出す。

 茶菓子として、おにぎりとしょうゆせんべいが添えられている。

「あなたが医者? なんでそんな変なもの被っているの」

「おや、お母さんは青い帽子が嫌いだったのかな。それじゃあ黄色い帽子に替えようか」

「帽子じゃないわよ! そのウサギのお面! ふざけているの!?」

「ウサギですか? お向かいのセレクトショップで購入しました」

 母親は不信感を隠そうともせず声を荒らげる。

 そんな母親を横に、コウキは表情を変えないままティーカップに視線を落としている。


「いやね、例えばわたしが三十歳の男だとするじゃないですか。“お前みたいな若造に精神治療なんてできるのか”って言われるでしょ。七〇歳だったら、“こんなジジイで大丈夫か”と言われる。でも、ウサギならみんな大好きでしょう?」

「はあ!? 知らないわよそんなこと。医者が顔を見せないなんておかしいわ!」

 どんな年齢であっても文句を言う人はいるからウサギを被るのだと、初田はわかるようなわからないようなことを言う。

「わたしの顔を見ると言うのはご法度《はっと》だ。今すぐ帰るといい」