初田ハートクリニックの法度

 平也自身が犯した罪で嘉神家の人間に恨まれるならまだ理解できる。

 だが、初田だと勘違いされて刺されそうなのは理解できない。

 平也だと勘違いされて殺人犯呼ばわりされるのは本当に不快だったと、さっきテレビで証言していた。

(本当に、むかつく。なんで初斗と間違われて恨まれなきゃなんねえんだよ。めんどくせえ)

 自分がやってきたことは棚上げにして、平也は来た道を引き返す。

 生まれたての子牛みたいにふらふらになった男が真向かいにいる。

「やっと俺に従う気になったか。さあ、はやく礼美に連絡を」

 馬鹿なことをわめく男の(すね)()り上げる。

 脛は人体急所の一つ。

 ダメージが通常の部位への攻撃よりもはるかに大きい。

 男が膝をついたところで顔面に蹴りを入れる。

 それで静かになった。

「こっちで声がしたぞ!」

「探せ!」

 幾人もの足音が近づいている。

 平也は急ぎその場を離れた。