初田ハートクリニックの法度

 面白半分に何でも撮影してSNSに投稿する世代だ。

 やめろと言ってやめるわけもない。

 あの番組は生放送(ライブ)

 いつものように初田のふりをする手が使えない。

 一秒でも早くこの場を離れようとした平也の前に、一人の男が立ち塞がった。

 おそらく平也よりいくぶん年上。

 高そうなスーツなのに、背広もシャツもシワだらけ。

 革の鞄も革靴も、薄汚れて光沢がない。

 男は唾を飛ばさんばかりの勢いで平也に詰めよってきた。

「初田、お前初田だな。よくも俺の前に出てこれたものだな」

「は?」

 平也を初田だと誤認している。

 男は怒り心頭の様子で、持っていた傘を振る。

 金属製の先端が街灯の光を反射する。

「お前のせいで、お前のせいで離婚されることになったんだ! 責任を取れ、あいつらを俺の前に連れてこい! よりを戻すように言え! 礼美(れいみ)は、うちの家事をする義務がある!」

 初田ではないと言えば嘉神平也であると認めることになる。

 しかし、この男の様子からして初田だと認めたら刺されかねない。

 どちらを選んでも(ろく)なことにならない。