初田ハートクリニックの法度

 通行人の幾人かの視線が平也に向いたような気がして、ぞっとした。

 初田はサングラスを外し、顔をさらす。

 キャスターやコメンテーターの質問ひとつひとつに、律儀に答えている。

 闇医者をしているらしいこと、歌舞伎町に潜伏していたこと、どれも真実だ。

(初斗がこんな真似するなんて。ずっと、人目を避けて引きこもっているって聞いていたのに)

 事件以降顔をさらせなくなり、隠居老人のような生活になっていると聞いて、胸がすく思いだった。

 いっそ医者を続けられなくなればいいのにと思ったが、神経が図太い弟はいまも医者を続けている。
 
 平也は弟が嫌いだった。

 幼い頃は虫を潰して遊ぶ、平也と同じ側の人間だったのに、自分は兄と違ってまともですという顔をして生きている。

 それが許せなかった。

 まともじゃないくせに。

 平也と同じ、異常者のくせに。