初田ハートクリニックの法度

 親の離婚が原因だの、幼い頃からおかしかっただの。

 会場にいた女優の一人が口元にハンカチを当ててうつむく。

(まだこんな無駄なことをやっているなんて、ご苦労なこった)

 平也は橋の欄干(らんかん)によりかかり、他人事でビジョンを見上げ、缶コーヒーのプルを開ける。

 サングラスに帽子で顔全体が見えなければ、どうということはない。

 今の顔を予測した似顔絵だかCGだか、そういうものも警察署にはりだされていることがあるが、あれも信憑性(しんぴょうせい)に欠ける。

『今回は特別に、双子の弟さんが番組に全面協力してくださいました』

 持っていた缶を落としそうになった。

 スタジオの中央に歩みでたのは、間違いなく初田だ。

 半袖のカッターシャツに袖を通し、ボタンは三つ開けた状態。

 デニムにスニーカー。

 およそ初田がしない服装だ。

 髪の毛を元の癖と逆に流していて、サングラスをかけている。

 初田がそういう格好をすれば、今ここにいる平也そのものだった。