初田ハートクリニックの法度

「コウキくん。前回の診察から今日までで、何か変わったことはあるかい。寝付きが悪かったとか、食べ物が喉を通らなかったとか、そういう些細なことでも気づいたことがあれば」

「病院に行くなって言われて勉強していたくらいで、他はとくにないかな」

「何もない?」

「あ、昨日は新聞配達のオジさんとあいさつした」

 礼美の書いてくれたノートと照らし合わせると、父親が逃げ出したことなど、コウキにとって見知らぬ人との挨拶以下の事象なのだ。

 秀樹のことは、父親どころか家族とすら認識していないかもしれない。

 同じ家にいる他人。

 いてもいなくても変わらない存在。

 親子関係の修復が不可能に近いのは明白だった。