初田ハートクリニックの法度

「歩に提案されてね。今日の夕方、撮影のためテレビ局に行く手はずになっている。ほら、平也が顔を変えていない限り、平也はわたしと同じ姿形をしている。わたしが集めた限りの情報は全て警察に提供したから、あとはテレビやインターネットの力を借りる」

 平也が捕まらないまま十年という時間が過ぎ、いまでは人々から事件の記憶が薄れつつある。

 日々新たなニュースが飛び込んでくるから、いかに凄惨な事件だったとしても風化するのは仕方のない話だ。

 けれどこのまま風化されては困る。

 初田はこの先も隠遁(いんとん)生活を送るなんてご(めん)だった。

「初斗……。危険なんじゃないの? あなたが平也だと思われて騒ぎ立てられたら大変よ」

「兄さんがするような服装をして、現在の姿はこうですっていうのを撮影するだけだよ。兄さんは普通にマスクかサングラスをする程度で歩き回っているようだから、目撃者はかなり多いはずなんだ。実際、七夕祭のときにわたしを見て、「この商店街の人だったんですか?」と勘違いした人がいた。電車に乗っているのを見たって。近隣で平也を目撃したのは、その人だけじゃない」

 テレビやインターネットの拡散力があれば、多くの目撃情報を集められる。

 初田が平也と同じ服装をして、“この顔でこの服装をする男を見たなら教えて欲しい”と言えばいくらでも情報が寄せられる。