初田ハートクリニックの法度

 診察室に通され、初田に職業訓練を受ける予定であることを伝えると、応援すると言ってくれた。

「訓練校に通う中で、体調がすぐれなかったり薬の副作用が出てきたら、症状に合わせて薬を調節するので気兼ねなく言ってください。授業中に眠くなったら集中できないでしょう」

「眠くはならないけど、ちょっと吐き気がすることがある」

「この薬の飲み始めに割とよく起こる副作用です。気持ち悪さ、吐き気が頻繁にあるようなら吐き気どめも一緒に出しておきましょう」

「お願いします」

 軽くノックの音がして、ネルが紅茶とお茶菓子を運んできた。

 ちらっと初田を見て大きく息を吸い込む。

「もっと紅茶をどうぞ。今日はダージリンちゃんのマスカットフレーバーですよー。お煎餅は隣のおばさんがくれた揚げせんの塩味です」

「い、いただきます」

 ネルがテーブルにトレーを置くために屈み、ブラウスの胸元にさがっていたネックレスが揺れる。

 鍵の形をした、アンティーク調のものだ。

「おかわりが必要なときは言ってくださいね」

「はい」

 診察室を出るネルを、つい目で追ってしまう。