初田ハートクリニックの法度

 初田ハートクリニックに入ると、高さ一メートルほどの下駄箱の上に金魚鉢が乗っていた。

 水草や水車の飾りが沈めてあって、竜宮城の形をしたエアポンプから泡がのぼる。

 虎門が取ってあげた金魚がくるくる泳ぎ回っている。
 
「こんにちは、虎門さん。見てください、金魚ちゃんたち、元気にやってるんですよ。白ちゃんは一番大食いなので、ごはんを多めにあげないとです」

 ネルがここまで大喜びしてくれるなら、取った甲斐があるというもの。

 いつ会ってもご機嫌なネルだが、今日は前に会った時よりも楽しそうに見える。

「根津美さん、今日はいつも以上に楽しそうですね。何かいいことがあったんですか」

 虎門より先に診察を終えていた女性患者も、同意して頷く。

 二人に見られて、ネルは口元に人差し指を当てて微笑む。

「内緒です〜。あ、聖さん、今日は日傘をさしてきていたでしょう。前回忘れて帰っていたから、今日は忘れちゃダメですよ」

「はーい。もう忘れないですよ、根津美さん」

 聖は会計を済ませると、傘立てから白い傘を抜き、虎門にも会釈してクリニックを出て行った。