初田ハートクリニックの法度

 初田は自分の心に問いかける。

 ネルを引き取ってからずっと見守ってきた。

 大切にしたいと思ってきた。その気持ちは今も変わらない。

 気持ちに名前をつけるとするなら、礼美がコウキを守ろうとするのと同じような、親子愛なのか。

 もしくは虎門とナナのような、兄が妹を守ろうとする兄弟愛なのか。 

 どちらも似て非なるもののように思える。

(親子愛でも兄妹愛でもないのなら、わたしのネルさんに対する心はどれにあたるんだろう。どうしても名前をつけ、一般にあるものと同じ分類をしなければならないものなのだろうか)
 
 コウキには「気持ちの名前を知るように」と教えているのに、初田自身、名前をつけられない気持ちに葛藤する。

「わたしの心は、ネルさんの望む形をしていないかもしれない。わたしの普通は、普通の形をしていない。嘉神兄弟の平常は異常、そう言われて育ちました。わたしの心は異常です。すごく面倒くさくて重たいでしょう。選んだことを後悔すると思います」

 たたみかけるように紡がれる言葉を、ネルはすべて受け止める。