初田ハートクリニックの法度

 コウキが向かいの椅子に座り、初田はテーブルに筆記具を乗せる。
 無地の白い紙。
 2B鉛筆。
 消しゴム。

「このA4サイズの紙に描いてほしい。学力テストじゃないから制限時間はない。思いつく木のある景色を描いてくれればいいから」

「べつに、それくらいかまわないけど」

 初田はコーヒーを運んできた礼美にも声をかける。

「お母さんも、息抜きにお絵かきしましょう。実の成る木を描いてください」

「は、はあ」

 困惑しながらも、礼美はコウキの隣に椅子を引いて席についた。

 コウキは左手で鉛筆を握り、紙を横にして、デコボコな地面を描きはじめた。

 ガシガシと細かく動かして、地面を黒く塗りつぶしていく。

 そして今にも枯れそうな細木を二本。

 枝は弱々しい数本しかなく、葉っぱもない。

 根もない。

 たった一つだけ成っていた実は地面に落ちてしまっている。

 片方の木には蛇が巻き付いている。

 真っ黒な地面からいくらか雑草が生えているだけ。

 その二本の細木が強風にあおられている。

 草木がまともに生えない荒れ地に、なんとか生えている弱い木。

 寂しくて悲しい印象を覚える絵だった。

 たっぷり十分かけて描きあげて、コウキは初田に絵を渡した。

「先生は描かないのか?」

「わたしはお仕事中だからね。仕事がないときに描くよ」