初田ハートクリニックの法度

「兄さんに医学の知識があることを、誰も不審に思わなかったんですか」

「免許のあるなしなんてどうでもいいからな。実際レンの言う通りにすると、風邪の症状も良くなるし」

 薄々、レンが嘉神平也だと気づいている人がいてもおかしくない。

 気付いたとしても、安価で医療を受けられるというメリットがあるから、口外しない。

 平也を警察に突き出すために探していることがバレてしまったら、支援者たちの手で初田の首が物理的に飛びかねない。

 どうすれば怪しまれずに平也のところにたどり着けるか、初田は赤いノンアルコールのカクテルに口をつけ、思案する。

「体調が悪いタイミングで兄さんがいない場合はどうしているんです?」

「その時は適当にそこらのドラッグストアの薬を買う。素人判断だからやっぱ薬が合わないし、治りにくい」

「そうなんですか」

「それに、レンに連絡先を聞くのは御法度なんだよ。一度、体調が悪くなった時にすぐ診て欲しいから電話番号を教えてくれと言ったやつがいたが、レンがブチギレていた。次聞いたら二度とここに来ないって」

 つまり、ここに来る誰もレン……平也の連絡先を知らない。

 虎門が言っていた、平也が降りた駅というのが新しい活動拠点だろうか。

 おおよそ降りた駅の当たりをつけて周辺を探るしかなさそうだ。

「お話を聞かせてくださって、ありがとうございました。あとは自分の足でなんとか探してみます」