初田ハートクリニックの法度

「それじゃ先生がんばってね」

 風船を持つ腕を上下させながら、アリスが店番をしている露店に走って行った。

 コウキが離れてすぐ、女子高生数名のグループが寄ってきた。

 近所の高校の夏服を着ていて、めいめい手にタピオカドリンクやかき氷を持っている。

「わ-! マスカレードの格好なんて初めて見た! おじさん、一緒に写真撮っていい?」

「だめです」

「一枚だけ。ね? お金かかるわけじゃないしさー。SNSにのっけたい」

「いやです」

「一枚くらいいいじゃん。はーい撮るよー」

 嫌だと言っているのに、少女たちは初田の隣にかわるがわる並んで撮影し始める。

 うるさいし香水臭いし、苦手な部類の人間なので離れて欲しい。

 平也だったら「寄るなガキが、しばくぞ」とでも言うだろうか。

 いや、そもそも平也なら風船配り自体を引き受けない。

 どうやって少女たちにお引き取り願うか考えていると、ネルが割って入った。

「写真撮っちゃ駄目」

「ネルさん」

 ふくれっつらで初田の腕にしがみつくネル。

 初田はネルにされるがまま。

 少女たちは何を察したのか、「彼女いたんだー」「ごめんね彼女さん」と言いながら離れた。