初田ハートクリニックの法度

 家の中だというのに、礼美はよそ行きの格好をしている。

 担任教師が家庭訪問に来たときの親そのもの。

 もしかしたら、Tシャツにストレッチパンツというような、ラフな服を持っていないかもしれない。

 掃除が行き届いているが、どうにも息苦しい家だと初田は思った。

 単語一つで表すなら殺風景。

 よく、マンションや一軒家のモデルルームというものがあるが、アレから生活感を一切取り払ったらこうなる、と言えば伝わるだろうか。

 インテリア、観葉植物はおろか、写真や絵の類が一つも飾られていない。

 カーテンは単色のグレー。
 目につく家具は全部黒。
 ビジネスホテルよりいっそ人間味がない部屋に、薄ら寒さすら覚える。

「今コウキを呼んできますね。それと、こちら頼まれていたものです」

「ありがとうございます」

 電話予約した日から診察日までのコウキの様子をノートに記してもらっていた。

 四人掛けテーブルセットの椅子に座って、ノートのページをめくる。

【食欲は変わらず、肉を好んで食べます】

【主人の目を盗んで、コウキを散歩に連れ出しました。コウキは嫌とも楽しいとも言いません】
 
【生ゴミの袋に、切断されたネズミが入っていました。コウキに聞いたら自分がやったと言いました。なぜ私は今まで気づかなかったのでしょう。虫殺しどころじゃなくなっていた】
 
【主人は仕事が繁忙期だと言い、スーツケースに大量の着替えを詰めて出ていきました。しばらくは会社そばのビジネスホテルから出社するそうです】