初田ハートクリニックの法度

 初田はスマホを持つナナの手首を掴んだ。

「やっと見つけた! ナナさん、このひとの連絡先を教えてください。わたしの兄なんです」

「へ、え、あ、兄? レンさんが、先生の? あなたが本人でなく?」

 困惑するナナの様子を見て、初田は我に返った。

 慌ててナナの手を離す。ウサギマスクの男に詰め寄られたら驚くのも無理は無い。

「すみません、女性の腕を掴むなんて失礼なことを……」

「いえ、驚いちゃっただけなので。でも先生、レンさんと兄弟なのに、連絡先を知らないんです?」

「生き別れの双子なんです」

 そいつは殺人犯の嘉神平也だ、と言ってしまうと自分の立場も危うくなる。

 初田は本当のことをいくつか隠しつつ、情報を引き出そうと試みる。

 前回のようにただ目撃情報を警察に伝えるだけでは、簡単に逃げられてしまう。

(わたしが平也になりすまして、逃亡の手助けをした人たちに接触すれば……、潜伏先にたどり着けるんじゃないか? 居場所を突き止めてから、警察に情報を渡す)

 危険な賭けだが、やってみる価値はある。

 家族以外に二人を見分けられた人はいない。

 性格がかなり違うが、黙っていれば分からない。

 見た目だけは本当に鏡映しのようだから。