初田ハートクリニックの法度

「兄貴、アスペルガーなんだって? 調べたら、治るもんじゃないから特性と付き合っていくしかないって書いてあった」

「そうです。妹さんから見てお兄さんはどうでしょう。生活は一人でできているんでしょうか。障害等級にも関わってくるので教えていただけますか」

 初田が聞くと、ナナはなにかに驚いたように目を見開いた。はっと我に返り、話をする。

「兄貴は掃除がすごく苦手。いつも部屋がちらかってる。小学校の時も大事なプリントを無くすことがしょっちゅうだった。料理はできないほうかな。ほっとくとカップ麺ばっか食べるから、うちがたまにかに玉の素とか野菜炒めの素とか持ってくんだ。卵を入れて炒めるだけなら兄貴でもできるから」

「ありがとうございます。とても参考になりました」

 初田はナナの証言をカルテに書き留める。

 一人暮らしの兄の部屋の様子や食生活を理解している、こまめに会うくらいには兄妹仲はいいようだ。

 それに、これほど協力的な家族がいるなら、虎門も前向きに通院できる。

 再び、ナナが首をかしげた。

「レンさん、いつから右利きになったの」

「レンさん、というのは?」

 知らない名前で呼ばれ、初田は困惑する。