初田ハートクリニックの法度

 虎門はうつむいて、必死に説明する。

「嫌じゃ、ないか、普通。だって申請して手帳が交付されたら、おれはこれから先、障碍者になるんだぞ。親父とおふくろにだって顔向けできない。仕事だって障碍者枠なんだぞ。テレビで見たことがある。障碍者は最低賃金を下回るようなところで働かされるのが現状だって。おれ、ナナの足かせになっちゃうだろ」

 ナナは貯まっていたチラシの山の一番上にあったピザ屋のお知らせを筒にして、虎門の頭を叩いた。

 パコンと気の抜けた音が部屋に響く。

「バカ。障碍に偏見持っているのは兄貴自身じゃん。うちの働いている店にそういう枠採用の子が一人いるけど、自分にできる範囲で一生懸命働いてくれているよ」
「う……」

 正論すぎて反論が思いつかなかった。

 障碍を持っていても立派に働いている人はいる。

 それはわかるが、どうしても長年持ってきた意識は簡単には拭えない。

「まったくもう。次の通院はいつ? うちも休み取って通院に付き添うから。そんで兄貴がしなきゃならないことを先生に聞くから」

「え、それはちょっと」

「しなきゃ兄貴いつまでもうだうだうじうじしてそうなんだもん。ちゃんと先生の言うとおりにしたら少しは働きやすくなるんじゃないの?」

 ナナは薬のレジ袋に一緒に入れていた診察券を見つけて、裏に書かれていた予約日時を手帳にメモした。

 これはどうあがいても次回の診察についてくる流れだ。

 障碍者の兄なんて嫌! と言われなかったのは幸いだけれど、妹に世話を焼かれっぱなしで自分が情けなくなった。