初田ハートクリニックの法度

 スマホが鳴り、画面を見るとナナからだった。

『兄貴。今日病院行くっていってたよね。大丈夫だった?』

「……大丈夫、では、ないのかな。俺、アスペルガー? ってやつなんだって。精神障害者手帳の申請と、障碍者枠での就職を視野に入れた方がいいって言われた」

 面と向かって告げる勇気がないから、電話越しでよかったのかもしれない。

 取り乱すでもなく、ナナは冷静に聞いてくる。

 住宅街の喧噪、車が通り過ぎる走行音がBGMになっていて、忙しいのに心配して電話をしてきてくれたのかと思うと申し訳なくなった。

『そっか。兄貴は、どうするの』

「わからない。でも、大丈夫だ。ナナに迷惑かけるようなことだけはしないから。兄が障碍者なんて世間体悪いもんな」

 考えないようにしていただけで、無意識にあちら側(・・・・)にはなりたくないと考えていた。

 自分は偏見なんて持たないよ、と理解があるようなことをいいながらも、心のどこかに差別意識があった。

 障碍者と呼ばれたくない。

(おれはまだ、普通でいたい)

 障害者手帳の申請は任意であり強制ではないと初田は言っていた。

 手帳の交付さえ受けなければ、健常者。

 虎門の言葉に、ナナが声を荒らげる。

『は? ばっかじゃないの!? うちがいつ嫌だって言ったよ。そういう考え方された方がよっぽど迷惑だっての!』

 電話が切れて、同時に玄関のチャイムが連打された。

「開けなさい馬鹿兄貴!」