初田ハートクリニックの法度

「……歩がそこまで言うなら、一枚だけ」

(兄さんが逮捕されますように? いや、ぼくが欲しいのは、そこから先)

 外でお茶会をしたい

 マーカーで手早く書いて歩に渡す。

 平也が起こした事件のせいで、もう十年近く顔を隠した生活をしている。

 総合病院にいたときだって、常に不織布マスクで口元を覆っていたし、外出時に素顔をさらせたためしがない。

 平也さえ逮捕されてくれれば、普通の生活ができる。

「そうね。じゃあアタシも同じものを書こうかしら」

「歩は歩の書きたいことを書けばいいじゃないか」

「二人が同じことを書いたら、星が叶えてくれる力が倍になりそうじゃない」

 歩はそう言いながら、銀の短冊に

“みんなで公園に行ってお茶会をする”

 と書く。

「私も書く。私がおにぎりを用意するね」

「じゃあ、あたしはお菓子を買って持って行かないと」

 初田と歩のやりとりを聞いて、ネルとアリスも新しい短冊にお茶会をする、と書く。

「四枚あれば倍率四倍よ、初斗。宝くじだってそうでしょ。たくさん買った方が当選確率は上がるんだから」

 歩が「ね?」と言うと、ネルもアリスも揃ってうなずく。

「……そういう考えもいいかもしれないね」

 初田は自分がサイコパスだと理解している。

 人の気持ちを本当の意味で理解することはできない。

 けれど、きっとみんな同じ気持ちでいるのだと思った。