初田ハートクリニックの法度

 歩はひとしきり笑って、次の話題に移る。

 店の作業テーブルから持ってきたペン立てと、縦長のカラフルな短冊の束を机に出す。

「ここと露店の店先に七夕飾りを出したいから、三人ともなにか願い事を書いてくれる? サクラで何枚かぶら下げておくとお客様も自分の願い事を書きやすいから」

「歩さん。何枚書いてもいい? 私、書きたいことたくさんある」

「いいわよ。アリスちゃんも、なんでも書きなさい。若いうちは野心をたくさん抱えていた方が楽しいんだから」

 この手のことが大好きなネルは青と緑とピンクのアルコールペンを抜いて、さっそく願い事を書き始める。

 願い事の下にネコやネズミの絵を描く。

 ネルに触発されて、アリスも短冊を一枚とって考え、ボールペンで願い事を書く。

「初斗もなにか書きなさいよ」

「わたしは不確かなものにすがる気はないよ。願いなんて他人に丸投げしないで、自分でつかみ取るものだろう」

「うーん。あんたって本当に、頭がいいのか悪いのか分からないわよね。書くだけならタダなんだからいいじゃない」

 この思考回路せいで、初田は幼い頃から感情が欠落しているだの人の心がないだのと言われる。

 本人は思ったことを口にしているだけなのだが、初田の正直な気持ちは他者に言わせると非情。

 新患の虎門のほうがずっと一般常識や普通の感覚を持っている。