初田ハートクリニックの法度

 虎門のあとの予約時間の患者だろう、少年と母親らしい二人が入ってくる。

 ネルは笑顔で二人に声をかける。

「コウキくん、お母さん、こんにちは」

「根津美さん、こんにちは。はいこれ。ええと、保険証と診察券と、自立支援受給者証」

 コウキが診察券と保険証、大きめの紙をカウンターに乗せる。

「はい、お預かりします」

 もう少しネルと話したい気持ちがあったが、長居するのは気が引けて、傘を借りてクリニックを出た。

「せめてあれくらいスムーズに応対できたらいいのに……」

 ネルが言ってくれたように、クリニックを出て数分もしないうちに雨が降ってきた。

 薬局で処方された安定剤を受け取り、傘を開いて駅までの近道を歩く。

 七夕が近いから、所々の商店の店先に笹が飾られていて、色鮮やかな短冊がつるされている。

 けーきたべたい
 ユーくんと両思いになれますように♪
 せんたいのレッドになる
 宝くじ百億円当たりますように
 
 かわいらしい夢から欲望にまみれたものまで様々な願いがある。

 まだ高校卒業したばかりだった頃の自分を思い出す。

(いつから、こんな風になっちゃったんだろうな)