初田ハートクリニックの法度

 虎門は猫背気味で、癖のある黒髪に黒縁メガネ。前髪は目を隠してしまうくらい長い。

 Tシャツにスウェットのズボン、サンダル。

 あまりおしゃれに頓着するタイプではないようだ。

 初田にうながされてソファに座る。

「それでは、どんなことで困っているのか話してもらえるかな」

「……どれから言えば……」

 虎門は困ったようにつぶやき、目を細める。

【虎門ケンゴ】

 年齢三十。一人暮らし。

 高卒後はバイトを転々としている。

 親は二月に故人となっていて、たまに一歳下の妹ナナが様子を見に来てくれると書いてある。

「根津美さんに、“ミスをしてパニックになった後、過呼吸を起こした”と聞いているんですが、それは普段からよくあるのですか?」

「……いつも、先輩に怒られてて。間違えたら怒られるから、メモを取ろうとすると怒られる。同じこと三回も言わせるな、何で怒られているのか分かってないでしょ、分からないくせに謝るなって言われて。だって分かるわけないじゃないですか。何で怒っているのか理由を言ってくれないんだから。普通それくらい察しろって。こうかなって思って聞くと違うんです。だったら怒っている理由を言ってくれればいいのに自分で考えろ、そんな当たり前のこと聞くなって。いまのレストランも、試用期間より先はないと思えって言われている」

 虎門はため込んでいた不満を吐き出す。