初田ハートクリニックの法度

 初田ハートクリニックの予約を無断キャンセルして五日経った。

 九月も中盤にさしかかり、冷え込む日が増えた。

 中村秀樹は夜中に尿意を覚え、階段を降りた。

 ベッドの宮棚に置いたデジタル時計は蓄光で4:04を表示している。
 
 初田に来院するよう言われたが、コウキはこれまで通り部屋で勉強していると礼美から報告を受けている。

(ほらみろ、何もないじゃないか。だいたい精神科医なんて、本当に診療になっているか疑わしいんだ。危うくヤブの見立てに騙されて無駄な医療費を払うことになるところだった)

 クリニックに苦情の電話をするのにだって有給を半日使ってしまった。

 秀樹は入社してからあの日まで、葬式以外で有給を使ったことがないのが自慢だった。

(しかもクソ医者が児相に連絡を入れやがって。オレの経歴に傷がつくところだったじゃないか。最近の奴らは何かあるとすぐ虐待だなんだと騒ぐ。軟弱すぎる。これくらい勉強するやつ、オレがガキのときにはいくらでもいたのに。クソクソクソ!)

 トイレに向かうのにダイニングキッチンの前を通らなければならない。
 扉が薄く開いていて、なにやら音が聞こえる。

 ダン、ダン、ゴリ。
 木製の硬いものを叩くような音、合間合間にチチチという鳴き声らしきものも聞こえる。