初田ハートクリニックの法度

「お給料が入ったら贈ろうと思っていたんだ。これ、気に入ってもらえたら嬉しいんだけど」

「開けてみてもいい?」

「もちろん」

 箱から出てきたのは、モルフォ蝶を模したガラス細工のバレッタだった。

「すごく綺麗」

「アメリカを旅したときにモルフォ蝶を見かけてすごく綺麗だったって言ってたから。こういうの好きかなって思って。たくさん助けてもらったお礼」

 まさかアリスが、最初の給料を歩のためにつかってくれるなんて想像していなかった。

 歩の店で働こうとした人は何人かいたけれど、ここまで歩のためを考えてくれた人はいなかった。

「ありがとうアリスちゃん。大切に使うわね」

 人との出会いや繋がりは不思議だと、歩はいつも思う。

 高校で初田と出会っていなかったら。

 初田が精神科医になっていなかったら。

 アリスが初田の患者でなかったら。

 今日という日は来なかった。