初田ハートクリニックの法度

 それから二十年以上経ち、高校を中退した後でも、初田との付き合いだけは続いている。

 初田が紹介してくれたアリスが働くようになって、店内は前より活気づいている。

 常連客になった少年、コウキが買い物に来た。

「アリス。昨日言っていたお茶まだある?」

「カーネーション茶のこと? うん、あるよ。お取り置きしといたから」

 コウキは昨日来たとき、ガラスのティーポットと茶葉のセットを食い入るように見ていた。

 カウンター裏にしまっておいたものを、アリスがとってきた。

「もうすぐ母の日でしょ。だから母さんに贈ろうと思って。初田先生がね、お母さんに花を贈るのが一般的だから、お店で買うと良いよって言ってた」

「あらま。初斗がそんなことを言うなんて成長したわねぇ……。高校の時なんて「贈り物ならこれでいいのかな」って花壇のラベンダーをむしって正座させられていたのに」

 ラベンダーの花は潰すと香りを発する。

 もちろん花をむしっていた初田本人はやたらラベンダー臭くなっていたので、歩は初田を叱り、すぐさま教員室に突き出した。

 その初田が贈り物の花は店で買いましょうと言えるようになったのだ。

 歩は、我が子の成長を見守る親のような心境だ。