初田ハートクリニックの法度

 きちんと食事を摂取するようになり、アリスの体重は少しずつ正常値に近づきつつある。

 こけていた頬も適度な肉がついた。

 手の甲の吐きタコも、新しい物はない。

「歩の店はアリスさんにすごく合っているんだね。よかった。歩はあの性格だからね、これまで何人かバイト希望がいたけど、一人も定着しなかったんだ」

「そう、なの? 歩さん、すごく話しやすいし面白い人なのに。外国のお客さんが来ても普通にその国の言葉で応対できるのすごいよね。休憩の時にもいろんな国の話してくれてさ。あたし、トルコに行ってみたいかも」

「みんながアリスさんみたいな感性だったら、歩も苦労しなかったろうにね」

 テレビでオネェタレントという人が増えたので、最近では息をしやすくなった方だろう。

 学生時代の歩は本当に生きづらそうにしていた。

 変わり者同士で馬が合うのか、初田とはよく話をしてくれた。

 初田の感覚は一般人の感覚と違うため、生き物を殺すなどの間違えたことをしそうになると歩が止めてくれる。

 大人たちが目を背ける初田の異常性に向き合ってくれた、数少ない人間だった。

 可愛い物や美しい物を愛する歩の嗜好、女性のような言葉遣いは同級生たちから揶揄いの対象になった。

 男女、気持ち悪い、男のくせに……と言われ続け、歩は学校を休みがちになった。

 初田は毎日歩に会いに行き、歩と話をした。

 歩も、初田とは違う意味でまわりと感覚が違っていた。