初田ハートクリニックの法度

 布マスクで口元を隠しているから顔全体は把握できないが、目元はとても整った造形をしている。

「いらないなら返してください。わたしが提供した分の血が失われると死ぬと思いますけど」

「は? 誰よあなた」
 
 見ず知らずの男が、おっとりとした口調でとんでもない発言をした。

「わたしの顔を見たことがあると豪語したくせに、誰とは失礼ですね。わたしは初田初斗。あなたが不細工で嫌みだと言った男ですよ」

 ものすごく嫌いな人間に生かされたことを知り、リナは歯を食いしばった。

 怒りにまかせて暴れたい、けれど足はまともに動かせないし、左腕は動かない。右腕も包帯でぐるぐる巻きになっている。

 モデルの仕事は、どうなる。

 傷痕が残ってしまったらクビ?

 リナよりも後から事務所に入った娘たちに仕事を奪われてしまう。

 それになにより。

(綺麗じゃなくなったら、お母さんはきっと私を捨てる)

 涙がいくすじも流れ、包帯にしみこんでいく。