初田ハートクリニックの法度

 アリスがワンダーウォーカーで働くようになって十日。

 二日目にはレジ打ちができるようになり、歩が教えた商品の仕入れ先や由来などもすぐに覚えた。

 話しかけられたくなさそうな客の雰囲気は察して、あちらから声をかけてくるまではそっとしておく。

 引っ込み思案で声をかけて来れなさそうな人には、アリスが自ら声をかける。

 人の空気を察する力がずば抜けて高い。

 自分なんて、と卑屈になってしまうところがあるのは、働いていくうちに自信がついて直ると、歩は踏んでいる。

 昼前に客足が途切れ、レジ打ちを終えたアリスに声をかける。

「うんうん。アリスちゃんはこの店一番の掘り出し物ね。いい看板娘ができて嬉しいわ」

「看板娘って……まだ服に着られているみたいな感じなのに」

「そんなことないわよ。蜻一(せいいち)おじいちゃんなんて、孫ができたみたいで嬉しいって喜んでいるじゃない」

 商店街に住んでいる老人、蜻一はワンダーウォーカーの常連で、ここでしか扱っていない水たばこ(シーシャ)のフレーバーを買いに来る。

 アリスは蜻一と一回話しただけで好みを覚えて、店に入ってくるのが見えるとすぐ、タバコのケースを用意する。