初田ハートクリニックの法度

「今のコウキくんを見て、お母さんはどうお思いですか」

『前よりもうつむきがちで、口を聞いてくれなくなりました。先生の助言をもっと早く行動に移せていたならと、後悔しています』

 初田の助言、それはコウキに無意味なことをする時間を与えること。

 一日中寝て過ごしてもいい。

 ゲームセンターに行くのでもいい。

 マンガ喫茶でのんびりマンガを楽しむのもいい。

 がんじがらめの生活を続けたら心が決壊する。

「ーーお母さん。うちは訪問診療も承っているんですよ。足を怪我していたり車を持っていなかったり、通院の手段が無い人のためのサービスです」

『……無断キャンセルしたうえに、あんな電話をするなんていう、不義理をしてしまったのに』

 あくまでも医者と患者であるため、初田が勝手に訪問するなんていうことはできない。

 だから礼美に言う。

「患者を見捨てるのは初田ハートクリニックの法度(はっと)だ。一日も早く、コウキくんの心のケアをしなければならない」

 礼美は初田の声に嗚咽がまじる。

『お願い、します。コウキを助けて』

「承りました。それでは、訪問診療の希望日時をお願いします」

 電話を切り、初田は診療予約表に予定を書き込む。