初田ハートクリニックの法度

 二日後、初田は中村が仕事に行っているであろう時間帯を選び、中村家に電話をかけた。

 電話に出たのは礼美で、声音は元気がない。

『初田先生。ご迷惑をおかけしてすみません。もっと早く謝罪の電話をできていればよかったのですが』

「いえ、よくあることですから。コウキくん、その後の様子をうかがいたくてね」

 児相に保護されたならよし、保護されていないのであれば……コウキの将来が心配だ。

『昨日、児童相談所の方が来ました。先生が知らせてくださったのでしょう?』

「はて? わたしはなにもしていませんよ」

 データを届けるよう指示はしたけれど、児相に駆け込んだのはネルだ。

 ネルが紅茶と俵おにぎりを運んできた。

 今日はネル特製のミルクティー。

 ネルのミルクティーは、99%の牛乳と1%の紅茶、少々のはちみつでできている。

 本人いわく黄金比率。
 紅茶がほぼ入っていないため、見た目はただのホットミルクだ。

 ネルが褒めてほしそうな顔をしているので、初田は「美味しいよ」と言ってミルクティーを味わう。

『虐待なんてしていないと主人が言って、要注意されて終わったんですが。昨夜は主人がだいぶ荒れました』

「コウキくんは?」

『外出禁止を命じられて、今は自分の部屋で勉強しています』

 世間体を気にするあまり、秀樹は息子を閉じ込めるという逆効果の対策に出てしまったようだ。

 今後もクリニックにくる機会を一切与えないつもりだろう。

 完全に狂ってしまう前に助けないと、本当に取り返しのつかないことになる。