初田ハートクリニックの法度

 五分と待たず、ネルがホットミルクをいれて戻ってきた。

「今日は特別に、ハチミツたっぷりですよ~」

「どうも」

「ありがとう」

 人肌よりやや熱めのホットミルクがテーブルに並べられる。

 アリスとコウキは会釈して、それぞれホットミルクに口をつける。

 毎回診察のたびに提供されるから、二人とももう違和感を覚えなくなっているようだ。

「にいさん、こっちのお肉やお魚は」

「アリスさんにいただきました。冷蔵庫に入れておいてください。お昼や夕ご飯で料理しましょう」

「そうなんですね。ありがとうございます、アリスさん。ありがたくいただきますね」

 本当はアリスが買ってきたわけではないけれど、アリスは曖昧に笑ってうなずいた。

 ネルが食べ物たちを持って退室し、初田は話を元に戻す。

「リナさんがもうアリスさんに会いに来ないようにすれば解決します」

「どうやって? お姉ちゃんはあたしの意見なんて聞いてくれないよ」

「リナさんにではなく、お母さんに話すんですよ」

「なにをどう言えっての? お母さんはあたしのこと嫌ってるよ」

 困惑するアリスに、初田は両手を広げ、裏声で答える。

「あたし、ちゃんと生活費を稼げるだけのバイトを見つけたから大丈夫。お父さんとお母さんこれまでたくさん迷惑かけてごめんね。ありがとう。お姉ちゃんにも迷惑かけたくないから、もうお姉ちゃんきてくれなくていいよ。そうすれば仕事に専念できるよね」

 言葉の内容か、それとも初田が裏声を出したことにか、あるいは両方か。

 アリスとコウキが口を開けてぽかんとしている。