初田ハートクリニックの法度

 アリスとコウキが並んで患者用のソファに座り、初田はいつもの席におさまる。

 アリスは重たそうな買い物袋を持っていて、中にはかたまり肉や鯖などがつまっていた。

 母親に頼まれて買い物……なわけがない。

 皐月はアリスを毛嫌いしていた。

 買い物を頼むなんてことをするようには思えなかった。

「それ、どうしたんだい。アリスさん」

「……どこから話せばいいのかな。ええと、あたし昨日この近所に引っ越してきたんだ。あ、一人でだよ。前の診察のあと、父さんと母さんが、さっさと出てけって言って即日アパートを決めちゃって。それで、お姉ちゃんがさっき、さしいれだってこれを持ってきた」

 アリスのためにも家を離れた方がいいと皐月に話しはしたが、即日追い出すなんていう極端な真似をするなんて予想外だった。

 どれほどアリスを疎んでいたのか。

 アリスは中学生以降サラダくらいしか食べなくなったんだと証言したリナが、アリスが絶対に食べられないものを持ってくる。

“アリスに差し入れをした”という事実だけあれば両親に褒めてもらえる、そんなリナの深層心理が透けて見えた。